スキル内課金をデザインする

効果的なアップセルメッセージ

前のセクション「適切なタイミングでの課金の提案」では、無料コンテンツでユーザーを引き付け、信頼を築いてから課金を提案することが重要だと学びました。次は、どうすれば効果的なアップセルメッセージを書けるかについて考えていきましょう。既に述べたように、Alexaスキルは音声ファーストのエクスペリエンスを提供します。画面を含むマルチモーダルなエクスペリエンスを提供することもできますが、ユーザーが受け身で課金アイテムを見るためのポップアップウィンドウや購入ボタンといった方法は「無い」前提で考えてください。つまり、言葉で課金アイテムについて伝えなければなりません。アップセルメッセージでは、はっきりと簡潔に価値を提案する必要があります。

また、提案する価値はユーザーに関連しており、親しみやすく自然な言葉で、具体的かつ明快に語られる必要があります。ただし、饒舌にはなりすぎないようにしてください。 ユーザーのエクスペリエンスを少しの間中断させることにはなりますが、邪魔だと感じさせないようにします。

信頼を築く

このコースでは折に触れて、ユーザーに最高のスキル体験を提供するには「信頼を築く」ことが重要だと説明してきました。また、信頼を損なうことなくアップセルを出すタイミングの見極め方についても学んできました。では次に、課金アイテムをユーザーにどう伝えるかについても考える必要があります。優秀なセールスマンは言葉を使って説明し、お客様に関連のある商品を提案することができます。つまり、彼らは専門用語を使わずに、はっきりと簡潔な言葉で伝えることができるのです。

また、丁寧すぎたり不自然な会話にならないことも重要です。信頼でき、関連性があって明快なアップセルメッセージにするためには、次の単語を使わないようにしてください。

  • 購入
  • スキル内課金
  • 収益化
  • バンドル、パック、拡張機能(修飾する単語を伴わない場合)
  • メニュー、オプション
  • コンテンツ、プレミアムコンテンツ
  • アクセス

明確な価値の提案を含める

専門用語は避けるべきであるとわかったところで、次にプレミアムコンテンツでユーザーに提供できる価値をはっきり簡潔に伝える方法について考えましょう。アップセルメッセージを書く前に、次の3つの点について考えてみてください。

  1. ユーザーが興味を持つ理由は?
  2. 用意しているコンテンツの数は?
  3. どのようにスキル体験の質が向上するか?

ここで、AlisonJustinがSeattle Super Triviaのアップセルメッセージの1つを演じているビデオを観てみましょう。ビデオを観ながら、上の質問への答えを考えてください。

効果的なアップセルメッセージ: 明確な価値を提供する

ここでは、この点について考えてみましょう。Justinは開始直後に、Alisonがフリーファイブ(毎日無料で提供されるコンテンツ)を完了し、なかなかよい成績だったことを伝えています。おそらくAlisonはもっとクイズに挑戦したいと思っているので、新しいクイズのパックを提案するのに最適なタイミングと言えます。Justinは、Alisonがその日のテーマについてよく知っていると考え、それに近いテーマのパックを勧めることにしました。このパックにも多くのクイズが含まれています。

確認していきましょう:

  1. 興味を持つ理由は?
    フリーファイブを5点満点中4点という成績で終了したばかりでした。クイズパックはスポーツ関連で、良い成績をおさめたばかりのフリーファイブと同じテーマです。
  2. 用意しているコンテンツの数は?
    トリビアメガパックには50問のクイズが含まれています。
  3. どのようにスキル体験の質が向上するか?
    シアトルのスポーツに関する追加のクイズ50問にアクセスできます。ユーザーがよく知っているテーマなので、ほかのテーマのパックよりも高い点数を取れる可能性があります。

このように、3つの基本的な質問に答えるだけで効果的なアップセルメッセージを作ることができました。

無料コンテンツのためのアップセルメッセージを書く

Seattle Super Triviaでは、無料コンテンツを提供することに決めました。ここまでのモジュールで、たいていの場合は無料コンテンツでユーザーを引き付けるのがベストである理由を説明してきましたが、無料お試しを提供するのが効果的な場合もあります。たとえば、ポッドキャストのライブラリすべてにアクセスできるようにする場合などです。

では、仮にSeattle Super Triviaをプレイするにはサブスクリプションが必要で、1か月間は無料でお試しできるとした場合、どのようなアップセルメッセージを書けばよいかを考えてみましょう。悪い例から見ていきます。

ユーザー: 「アレクサ、Seattle Super Triviaを開いて」
Alexa: 「すみません、Seattle Super Triviaをプレイするにはサブスクリプションが必要です。新規登録すると1か月間は無料でプレイできます。サブスクリプションの方法を知りたいですか?」

— Seattle Super Trivia

これでは効果的なアップセルとは言えません。スキルの価値を提案できていないからです。

より効果的に無料お試しを勧めているアップセルの例を見てみましょう。読みながら、提供するコンテンツを3つの点(興味、量、良くなる点)から考えてみてください。

ユーザー: 「アレクサ、Seattle Super Triviaを開いて」
Alexa: 「サブスクリプションすれば、Seattle Super Triviaをプレイできます。1日10問のクイズにチャレンジでき、メガトリビアクイズパックは半額になります。また毎月追加のヒントを獲得できます。新規登録すると1か月間は無料でプレイできます。サブスクリプションの方法を知りたいですか?」

— Seattle Super Trivia

前回よりすごくよくなっていますね。 スキルについて提供される価値の内容を詳しく知ることができるだけでなく、1か月無料でお試しできることもわかります。

  1. 興味を持つ理由は?
    ユーザーは初めてスキルと対話しています。 スキルを有効にしてすぐにクイズに挑戦しようとしています。
  2. 用意しているコンテンツの数は?
    毎日10問のクイズ、割引、そして無料で追加されるヒントがあります。
  3. どのようにエクスペリエンスが向上するか?
    1日10問のクイズ、割引、無料ヒント、そして1か月間の無料お試しにアクセスできます。

透明性をキープし「地雷」を使わない

我々が提供するのは、スキルという目で見たり触ったりすることのできない商品です。商品を理解するには認知負荷がかかるため、説明はわかりやすくする必要があります。有料オプションをほかの無料コンテンツと同列に紹介しないでください。繰り返します。 有料オプションをほかの無料コンテンツと同列に紹介しないでください。 あわよくばユーザーがプレミアムオプションを選んでアップセルにつながる、などと期待してはいけません。もう一度言いますが、これは「おとり商法」です。 コンテンツを選んだつもりが実はアップセルメッセージだった場合、ユーザーの信頼を失ってしまいます。

このようなことがあってもユーザーはSeattle Super Triviaを使い続けてくれるでしょうか?

おとり商法を使わない:

Alisonはとてもがっかりしていました。無料で選べると思っていたクイズパックは有料で、別途購入しなければいけないとJustinが言ったためです。これは、ユーザーをだましてプレミアムコンテンツを買わせようとしたのと同じです。もっと積極的になる必要があります。 ユーザーに買ってもらう意義があるのなら、恐れずに有料であることを伝えてください。では、より効果的にアップセルしている例を見てみましょう。

ユーザー: 「アレクサ、Seattle Super Triviaを開いて」
Alexa: 「Seattle Super Triviaにおかえりなさい。今日の無料クイズには既に挑戦してしまいました。明日はどうなるか楽しみですね。それまでの間、シアトルの有名スポーツ選手に関する追加のクイズに挑戦する方法を知りたいですか?」

— Seattle Super Trivia

前回よりすごくよくなっていますね。 ここでは、野球をテーマにしたフリーファイブをよい成績で終了したユーザーが、後でもう一度スキルを開いたタイミングでアップセルをしています。また、提案するコンテンツも戦略的に考え、シアトルの有名スポーツ選手に関するクイズパックを選びました。

提案するのは1回に1つ

画面に頼ることができないため、アップセルメッセージはシンプルに、そしてオプションの数が多くなりすぎないようにしてください。アップセルメッセージにはシンプルに「はい」か「いいえ」で答えられるようにすることをお勧めします。1つの商品であっても十分に説明できる時間はありません。まして2つなら尚更です。どちらかを選ぶことは混乱を招きやすく、高い認知負荷を必要とします。スキルに複数のスキル内課金オプションがある場合でも、ユーザーに最も関連性の高いものを1つだけ提示するようにしてください。

受け身的にならない

優秀なセールスマンは遠回しな言い方はしません。スキルの場合も同じです。 待ちの姿勢ではなく、主体的に進めましょう。提供するアイテムを率直に伝え、直接的に購入の意思をたずねます。商品を説明するだけの待ちの姿勢では、ユーザーに忘れられてしまいます。音声で流れる商品の情報を覚えておくには認知負荷がかかります。プロンプトなしで発話を覚えておいてもらうのは大変です。

では、こうした受け身の姿勢がなぜ効果的でないかの例を見てみましょう。

「今日の無料クイズを始める前に、Seattle Super Triviaの難問で使えるヒントを追加で購入できることをご存知でしたか? クイズの途中でヒントを購入する場合はいつでも言ってください。では、さっそく始めましょう...」

— Seattle Super Trivia

この場合、ユーザーはヒントを買いたくなったらAlexaに頼むということを覚えておかなければなりません。この点を少し改良する必要があります。クイズを始める前にヒントを購入できることを伝える代わりに、クイズの後でヒントを購入したいかをたずねるのです。

「恐れ入りました! [点数]という記録はすばらしいものです。好成績を維持するにはヒントが役に立ちます。プレイしている間、私に聞いてくださればいつでも、とっておきのヒントを得る方法ついて知ることができます。ヒントを得る方法を知りたいですか?」

— Seattle Super Trivia

購入後のコミュニケーション

ユーザーが購入してくれた後のスキルの対話についても検討する必要があります。 優秀なセールスマンは売るだけではなく、お客様やビジネスに心から感謝をするものです。スキルでも感謝の気持ちを示しましょう。 購入してよかったと実感してもらうため、買ったものは早速使えると知らせてください。

次の例は、購入への感謝や購入したコンテンツを早速楽しめることをユーザーに伝えることができていない例です。

Alexa: 「購入が完了しました。<スキルセッションの終了>」

— Seattle Super Trivia

感じのよい対応とは言えませんね。 ユーザーは少しだまされたように感じるかもしれません。お金を受け取ったらさっさと行ってしまうなんてどうなっているのだろうと思わせてしまいます。 では、よいメッセージの例を見てみましょう。

Alexa: 「シアトルの有名スポーツ選手トリビアパックをお買い上げいただき、ありがとうございます。早速クイズに挑戦しますか?」

— Seattle Super Trivia

ここでは購入に対する感謝を伝えた後、すぐにプレイするかどうかをたずねています。あるいは、たずねる代わりに新しいトリビアパックのクイズを始めることもできます。どうデザインするかはあなた次第です。経験的に、購入後はすぐにそれを使うのが一般的です。たとえば、ユーザーのヒントがなくなって「ヒントをちょうだい」と言った後、ヒントの購入に「はい」と答えた場合は、ヒントを使うかどうかたずねるべきではありません。ユーザーがすぐに使いたいことは明白だからです。

ただし、さりげなくヒントの使用をキャンセルするチャンスは与える必要があります。たとえば次のようにします。

Alexa: 「ヒントのお買い上げありがとうございます。3つのヒントのうち1つを、早速このクイズに使いますね。残りはあと2つです。ヒントを使う準備はいいですか?」
ユーザー: 「はい!」

— Seattle Super Trivia

ヒントを使うかどうかを明示的にたずねるのではなく、準備はできているかをたずねています。ユーザーが「いいえ」と答えたらクイズの問題をもう一度繰り返してください。問題を最初に聞いてから、ヒントをリクエストし、アップセルメッセージを聞き、購入するまで時間が経っているからです。

優秀なセールスマンはお客様に対して暗黙的にも明示的にも、しつこくたずねたり脅したりしません。そうしない理由はおわかりですね?ではご一緒に! 信頼を損なうからです! やさしく仄めかすほうがずっと信頼できる伝え方です。

悪い結果になると脅さない

ユーザーが購入してくれないからといって悪い結果になると脅すことはしないでください。ユーザーは脅されていると感じると、さらに買ってくれなくなります。

スキルで脅しを使うとどうなるかを観てみましょう。「私なら脅されても購入するだろうか?」と考えながら観てください。

ユーザーを怖がらせて購入に追い込むのはやめましょう。ユーザーは喜んでくれません。

気持ちのよいやり方ではないですよね。こうしたやり方はエクスペリエンスに否定的な印象を与えます。こうしたメッセージは、ゲームの力を利用して最小限の努力で最大限の効果をもたらすという原則に反します。誰も買おうという気にさせることはできませんし、そのような気分が落ち込むゲームをプレイしようとも思わないでしょう。

適切なトーンで伝える

スキルの用途、音声、性質にかかわらず、ユーザーに購入するよう強く迫ったり脅したりしつこくたずねたりするスキルはユーザーの信頼を失ってしまいます。信頼を失わないようにしましょう。

では、より楽しいトーンになるよう書き換えたものを観てみましょう。メッセージのどういう点がよくなったかを考えながら観てください。

「このラウンドで間違えた分を取り戻せば、次のレベルに進めるかもしれません。いざというときのためにヒントを貯めておきませんか?」

— Seattle Super Trivia

この場合、ヒントを購入すれば、1問不正解でも次のラウンドに進めることを伝えています。 負けた場合のペナルティではなく、勝つ可能性について伝えることで、より前向きなトーンになっています。

 

ここまでで次のことを学びました。

  • 専門用語を使わない
  • アップセルの提案ははっきりと簡潔に伝える
  • アップセルは率直に伝える
  • ユーザーを脅すことは避ける

次は、Amazon購入フローのしくみについて説明します。スキルでは、スキルとAmazon購入フローの間の遷移を処理する必要があります。