Alexaスキルは音声ファーストのエクスペリエンスを提供します。つまり、やり取りのメインは会話によって行われます。画面付きのデバイスもありますが、画面はメインではなく、あくまで音声を補助するものとして扱ってください。画面のないAlexa搭載デバイスはたくさんありますので、画面なしでもスキルが成立するようにします。画面がないことを前提に、どれが無料コンテンツでどれがプレミアムコンテンツなのかを言葉で伝えなければなりません。
つまり、次の要素は使えないと考えてください。
購入の処理はAmazonの購入フローによって行われます。ユーザーがアップセルの提案に「はい」と答えたら、ユーザーはスキルからAmazon購入フローに移動します。購入したかどうかにかかわらず、購入フローが終了した時点で、ユーザーはスキルに戻ります。つまり、スキル側で購入フローのGUIを提供することはできません。
画面に頼ることができないため、提案方法を改めて考える必要があります。しかし、私たち人間は長い間、売買や物々交換を言葉によって行ってきました。 セールスマンをお手本にしてやり取りを考えてみましょう。
優秀なセールスマンはどのようにしてたくさんの商品を売ることができるのでしょうか?優秀なセールスマンとは次のような人のことです。
これら6つのベストプラクティスをスキルに応用するとこうなります。
では、悪い例をどうぞ。
いやあ、ひどかったですね。問題点がたくさんありました。 スキル役を演じているJustinは、ユーザー役のAlisonに6回も不適切なタイミングでアップセルをしています。具体的にどこが問題なのかを見てみましょう。
最後のアップセルに至ってはスキルの終了時に提案されていました。ユーザーは提案されたまま取り残されてしまいます。購入したいと思ったら、ユーザーはもう一度スキルを起動してコンテンツを明示的にリクエストしなければなりません。また、ユーザーはスキルを終了してと言ったあともアップセルの提案を最後まで聞かされるのでうんざりしてしまいます。これでは、ベストプラクティスとは言えませんね。
スキルをデザインするとき、少なくとも2人組になって実際に対話してみるようにしてください。そうすることで、上のような惨事を防ぐことができます。
もう一度、優秀なセールスマンを思い出してみてください。スキルでは、「ユーザーを引き付け」、「ユーザーを知り」、「信頼を築き」、「ワクワク感を与え」、「適切なタイミングで課金を提案し」、「しつこくしない」ことが重要でしたね。スキルでこうしたセールスマンの技を完璧に模倣するためのテクニックをいくつか考えてみましょう。
優秀なセールスマンはいきなり売りつけようとはしません。スキルでも同様です。とある洋服店に入って、たまたま一枚のジャケットを手に取ると、いきなり店員さんが近づいてきて売りつけられそうになったことはありませんか?優秀なセールスマンは、まずあなたを知るために少し時間をかけます。この人はどんなものを探していて、どんなものがこの人のニーズに合うだろうかを考えるのです。十分な情報を収集して初めて、お勧めを提案します。優秀なセールスマンは無理矢理売りつけようとはしません。お客様に自分で決めさせてくれます。
スキルは人間ではないので事態はもっと複雑です。スキルは、人間が考えたり話したりするときに使う言語的、視覚的、身体的な手がかりを理解できません。スキルは、ユーザーが商品を買うかどうかを決める時間を延ばすことはできません。お金に関する決定には時間がかかります。しかしスキルでは、提案の内容とそれによって得られるメリットをユーザーが理解して「はい」か「いいえ」を答えられる時間は、アップセルメッセージの長さの時間とマイクの待機時間の数秒間しかありません。そのスキルをほとんど体験したことがない場合、十分なコンテキストがなければ、これだけのことを決めるのは大変です。このため、プレミアムエクスペリエンスを提案する前に、ユーザーがスキルを十分に体験し、仕組みを理解できるようにしておく必要があります。
Seattle Super Triviaは、毎日無料で5問のクイズに挑戦できる「フリーファイブ」と、サブスクリプション型の追加の5問「ハイファイブ」を提供するようにデザインしました。優秀なセールスマンと同様に、プレミアムコンテンツを勧めることなく無料コンテンツを体験させて、まずは無料コンテンツでユーザーを引き付けます。ユーザーが無料コンテンツをプレイし終わったところで、毎日5問ずつクイズを追加し、週末に特別クイズに挑戦できるコンテンツをアップセルとして提案します。
アップセルを出す前にどのようにユーザーを引き付ければよいかを実際に見てみましょう。Alisonがスキルを起動するところは省略し、初めてフリーファイブをプレイした直後の場面から取り上げています。ビデオを観ながら、次の点について考えてみてください。
適切なタイミングでアップセルを出そう
前回よりすごくよくなっていますね。 JustinはAlisonにまずゲームを体験させてから、アップセルをしています。これにより、Alisonはゲームのしくみを理解できますし、得点も上げやすくなります。Justinはまず彼女の得点を褒めてからスムーズにアップセルに移りました。この時点で提案することで、アップセルを「わずらわしいもの」から「特典」のように感じさせることができます。
誰かと電話していて、ふと気が付くと相手が自分の話を聞いておらず機械的に「うんうん」など(Andrea Muttoniaのスキル「Uh-huh feature」を参照)と相づちを繰り返しているだけになっていたという経験はありませんか? そして、その相手に「じゃあ、私に1億円くれるんだね?」と聞いても相手が「うんうん」と答えて大笑いしたという経験はないでしょうか? あまりいい友達ではないという以外に、彼らがあなたの話を聞いてくれなかった理由はいろいろと考えられます。ゲームをしていたかもしれませんし、運転中だったかもしれません。本を読んでいたり、マニキュア中だったり、レゴを作ったりしていた可能性もあります。会話が成立するためには、お互いの頭の中に何らかのイメージを作り上げる必要があります。人が覚えておける情報の量のことを「認知負荷」と言います。「認知負荷」の量は人によって違います。長々とわかりにくいアップセルメッセージを伝えると、ユーザーは、先ほどの友達と同じように、内容を聞かずに「いいえ」と答えるだけになってしまいます。
では、次のやり取りを観てみましょう。これは、シンプルな提案ができていない例です。そして、ビデオを観ながら次の点について考えてみてください。
認知負荷が重過ぎる例: 一度にすべてを提案する
どうでしたか? 長かったですね。スキルでは次の提案をしていましたが、聞き取れましたか?
全部でなんと、3種類のスキル内課金と52種類の商品を提案していたのです。 毎日5問の追加クイズはサブスクリプション型で、トリビアパックはすべてサブスクリプション型ではない、という違いは理解できましたか? ヒントの仕組みはどうでしょう? この場合、Justinは最初にユーザーを引き付けることもできていませんでしたし、Alisonにあらゆる種類の商品をすべて売ろうとしていました。キッチンのシンクまで売る勢いです。 これは問題です。 何も買ってもらえないどころか、 理解すらしてもらえていません。 ユーザーが一度に理解するには情報量が多すぎました。明らかに認知負荷を超えています。この場合ユーザーは、購入する代わりに提案を理解するための質問で答えるでしょう。これでは、対話がさらに複雑になるだけです。
では、どうすればシンプルにできるでしょうか? アップセルは一度に1商品のみに限定します。
Seattle Super Triviaの場合、1回ですべての商品を提案しないようにしました。フリーファイブでユーザーを引き付けたうえで、アップセルを提示しても大丈夫だと判断できた場合にのみ、一度に1つの商品を提案することにしたのです。
セールスマンに「お客様に何かをお勧めするのに最適なタイミングはいつですか?」とたずねたら、 お客様が「はい」と言わずにはいられないときと答えるでしょう。
関連性の高いアップセルを最適なタイミングで出す方法を観てみましょう。ビデオを観ながら次の点について考えてみてください。
適切なタイミングでアップセルを出す
Alisonが「はい」と言ってくれました! 大成功です。 ここでうまく行ったのは、ユーザーがコンテンツに興味を持ってくれていることを確認してからアップセルをしたためです。Alisonはもう5日間も連続でプレイしてくれています。彼女はこのゲームから何を得られるかを理解してゲームを楽しんでおり、彼女の信頼を得ることができています。 彼女がもっとゲームを楽しみたいと思っている可能性が高いと判断できたので、ハイファイブへのサブスクリプションを提案しました。ここではヒントを提案することはしません。彼女は自分でクイズに正解しヒントを必要としていないので、今ヒントを提案しても買ってくれないでしょうし、信頼を失ってしまう可能性もあるからです。
アップセルは、誤解や混乱を生じさせたり、鬱陶しいと感じさせたりしないようにする必要があります。
既に説明したとおり、スキルが認定に合格するためには何らかの無料コンテンツを含めなければなりません。つまり、スキルには無料コンテンツとプレミアムコンテンツが混在していることになります。このため、どのコンテンツが無料で、どのコンテンツがプレミアムなのかをユーザーに明確に理解してもらう必要があります。
無料と思わせて実はプレミアムコンテンツだった場合にどうなるかを観てみましょう。次の点を考えながら観てください。
おとり商法をしないでください。ユーザーはそのやり方に不満を抱くでしょう。
やってしまいましたね。 無料でアクセスできるかのようにアップセルをしてしまいました。信頼を損なう最悪の手法が、この「おとり商法」です。 ご存知のように、信頼を築くには時間がかかりますが、それを失うのは一瞬です。また、ここではせっかくのやる気も失せてしまいました。 Alisonはフリーファイブを解き終えたばかりでもっとクイズに挑戦したいと思っていました。 それなのにアップセルを出したことで信頼ばかりか、やる気までも奪ってしまったのです。これでは、いくら努力してもわずかな成果しか挙げられません。
一度信頼を失ってしまうと、完全に取り戻すことはほぼ不可能です。たとえ取り戻せたとしても、ユーザーは、もし何かに「はい」と答えたらまた何かを売りつけられるのではないかと常に恐れるようになるでしょう。
Seattle Super Triviaをデザインする際に、既にサブスクリプション済みのユーザー以外にはフリーファイブの後にもっとクイズに挑戦したいかとたずねないようにしたのはこのためです。
アップセルを出す頻度には最適なバランスがあります。信頼を失わないためには、このバランスを見極める必要があります。
Seattle Super Triviaで採用した戦略は次のとおりです。
それでも1回に提案するアップセルは1つにします。5回プレイしたユーザーに対して、サブスクリプションとメガトリビアパックを同時に勧めることはしません。代わりにサブスクリプションパックを提案します。
どこでアップセルを出すかを理解したので、次は、課金してもらえる可能性の高いアップセルメッセージをどう書くのかを考えてみましょう。