移り変わりの激しいスマートフォンゲーム業界において、タイトルの人気を持続させることは大きな課題のひとつ。その中で3年以上のロングランを続けているシューティングゲームが、「ゴシックは魔法乙女(通称:ゴ魔乙・ごまおつ)」。
そんな「ゴ魔乙」が2018年3月、Amazonアプリストアに登場しました。8月22日時点でのカスタマーレビューは平均4.5(レビュー総数18)と高評価。特にAmazon Fireタブレットとの相性の良さに触れるレビューが目立ちます。
今回は「ゴシックは魔法乙女」を運営するケイブ社を訪問し、「シューティング×ソーシャル」のゴ魔乙が誕生するまでのウラ話や、Amazonアプリストア版リリースの背景、そして3年以上タイトルの人気が続く秘訣がどこにあるのかを探るべくお話を伺いました。
通称“IKD”としてケイブの様々な弾幕シューティングを手掛ける。 |
ケイブ全体のプロモーション施策の計画をマス、Web、リアル問わず、様々な戦略視点から施策への落とし込み、実行運営を行う。 |
『ゴシックは魔法乙女』のプロジェクトマネージャであり、ゴ魔乙 |
池田(敬称略):「『ゴシックは魔法乙女』は、2015年4月にリリースをした、スマートフォン・タブレット向けのシューティングゲームです。基本プレイ無料で、ダウンロードして遊んでいただくことができます。
昔ながらの『2D縦スクロールシューティング』のシンプルな打ち合いの面白さを活かしながら、スマートフォンとタブレット向けに制作したゲームです。」
池田:「アーケードゲームやコンシューマーゲームには、いわゆるシューティングゲームファンの方々がいらっしゃり、弊社は元々そういった方々を主なターゲットユーザーとして制作していました。
一方で昨今のスマートフォンやタブレットで遊ばれる方々の層は、今まで以上に幅広くなりました。そこで『ゴシックは魔法乙女』に関しては、できるだけ幅広いユーザー様に遊んでいただけるよう工夫をしています。
難易度の面もそうですし、クリアしたり得点を稼いでランキングを上げていったりするところに関しては、RPG的な育成要素を絡めることでハードルを下げ、テクニックだけに偏らない形で楽しめるようにしました。」
池田:「そうですね、ユーザー様同士が繋がりながら遊んでいくスタイルのシューティングゲームって、確かに当時はほとんどありませんでした。
実は『ゴシックは魔法乙女』の前に、1つ痛い失敗というか良い経験をしていまして。2013年に『ドン★パッチン』というタイトルをスマートフォン向けに出しているんですね。その時はできる限り幅広いターゲットに向けて、原点の原点まで探りを入れて、操作のところも簡略化してやったんですけれども。マス向けにものを作る時によくある失敗として、『大きく取りに行って誰にも刺さらない』というパターンがあるのですが、それに近い経験をしました。
その手法はどうも駄目だということが分かったんですが、それでも幅広いターゲットを取りに行くところは守りたかったんですね。一方で、シューティングゲーム本来の面白さと、シューティングゲームユーザーの方々がちゃんと遊べるものにはしておかなければならないと感じていました。
それで少しアーケードやコンシューマーのような作りに近づけるというか、私たちの本来の十八番と言えるところで勝負をした方が良いんじゃないかというのが、当時の反省からの立ち返りでした。」
池田:「このタイトルを出す前のコンシューマータイトルの中に『デススマイルズ』というゲームがありまして。
弊社では過去にアーケードやコンシューマー向けのシューティングゲームを色々作ってきているのですが、ユーザーさまの付き方って実はタイトルごとに少しずつ違うんです。そして『デススマイルズ』に関しては、特に色々な層のお客さまが入って来られました。
当時世界観やキャラクターを井上淳哉氏に作ってもらったのですが、『日本人が分かるファンタジー要素』というか、ちょっとゴシックファンタジーで耽美な感じを入れています。ユーザーさまへの訴求や実際のゲーム自体も、今までのケイブのシューティングゲームとは異なっていることもありました。
そんなデススマイルズの世界観を踏襲しつつ、新たなIPとして作られたのが『ゴシックは魔法乙女』です。」
©2007 CAVE CO., LTD.
※「ゴシックは魔法乙女」と世界観を共有している「デススマイルズ」。
池田:「当時様々な会社さんとお話する機会があったんですけれども、ほとんど『いやー、難しいんじゃないですかね』みたいな反応でしたね。シューティングゲームでソーシャルゲームってほぼなかったので。
正直なところ、弊社内でもそんな感じでした。『当たるのかな、大丈夫なのかな』みたいな(笑)。
期間的な意味でも、こんなに長い間プレイしていただけるというのは想定外ではありました。」
小谷:「そのタイミングで、売上のベースを上げたいというところが大元にありました。Amazon版の話を前任者が聞いていて、しばらく頓挫していたところがあったんですけれども、ベースを引き上げるチャンスだなと思いまして。」
小谷:「良かったところで言うと、工数が非常に少なく開発できたのが一番良かった点かと思います。これは予想以上で、社内でAmazon版のリリースを提案した時も『本当にこんな工数で行けるの?』と驚かれました。
ただ、実際そうなんですよね。アプリとサーバーに1人ずつ、どちらも1人月だったんですよ。そしてデバッグには2人だったので2人月。開発としては、費用・工数がかかっていない中で実績を出せたのが良かったかなと思います。
あとはユーザーさまですね。大きなプラットフォームではないとは元々伺っていたのですが、一定のお客さまがずっと付いているというか。最初に色々広告を打って頂いた際にDAUが一気に伸びて、そこから減っていくのかなと思っていたんですが、実はそこからずっと変わらずに同じところを維持しているんです。
他社さんに比べると数自体は少ないのですが、本当に数が減らないんですよね。弊社がAmazon向けに何かをやっている訳ではないのですが、リリース時から一定ラインをほぼキープしているのは率直にすごいなと思いましたし、弊社としても良かったと思います。」
小谷:「実際には2ヶ月ですね。開発に1ヶ月と、デバッグで3週間くらいです。ただ、開発もかかりきりでやっていた訳ではなくて、ほとんど他の作業と並行してやっていたんですよ。
フルでリソースを割いていた場合には恐らく2週間くらいでアプリ・サーバーの部分は完成していたんじゃないかと思います。
あともう1つ言おうと思っていたのが、サポートが非常にありがたいですね。他社さんだと1タイトルに対してサポートの方が専任で付いて、しかも日本の方が付いてくださるってなかなかないと思うんです。
困った時に技術的なことを含め質問しやすいのがありがたいです。普段はWebでばーっと調べたり記事を漁ったりすることが多いんですが、メールでやり取りできたのでスムーズでした。」
小谷:「元々弊社は、1994年からアーケードゲームを製作していることもありまして、スマートフォンの小さい画面よりも大画面でプレイすることに慣れているユーザーさまが一定数いらっしゃって、大画面でゴ魔乙をプレイしたいという要望があることは把握しておりました。そういうところがマッチした部分はあるかと思います。
Fireタブレット自体の売れ行きも好調でしたよね。そういった土壌もあって、うまく調和できるかなとは思っていました。」
池田:「今回アプリのエンジニアができるだけ快適に動かすために相当頑張ったよね。『せっかくAmazonで出すんだから』というので、結構チューニングは頑張りました。」
小谷:「そうですね、Fire7のタブレットってメモリが若干少ないじゃないですか。弊社のゲームはそれなりにメモリを使うので、組み込んでテストしてみたところ、特定の端末においてチュートリアルで落ちてしまったり動かなかったりというイシューがありました。そこはエンジニアさんに色々なチューニングを施してもらって。何とか動くようにと、ギリギリまで詰めていました。」
小谷:「そうですね。動かすだけであれば、実は1日・2日くらいで終わります。元々弊社では他社さんのストアでリリースしていましたので、その場合ですと本当に早いと思います。あっけないくらい簡単に動いちゃうんですよ。
その分チューニングにはしっかり時間をかけましたし、エンジニアさんも苦労されていたと思います。」
田畑:「ゴ魔乙に関してはかなり長い間動かしているところがありますので、ニュースというか新たなコンテンツとして、IPコラボレーションを行っています。今回Amazon版をリリースするタイミングでは、『カードキャプターさくら』とのコラボを行っていました。
これまで色々なIPコラボを行ってきて、その時がさくらだったのですが、結論から言うとプロモーションとしては非常に良かったなと思っています。
何が良かったかというと、さくらとのコラボで入ってきた方の継続率が良かったんですね。コラボってたくさんのお客さまが入って来られるんですが、キャンペーンが終わったらまた出ていってしまうことが多くて。過去に行ったコラボ全てで比較しても、さくらが一番継続率が高かったんですよ。」
田畑:「プラットフォームで紐解いてみると、Amazonがダントツで継続率が高いという状況になっています。これは短期間(3日間)でのデータもそうなのですが、一番顕著だったのが1ヶ月後。
1ヶ月後でも継続率が一歩抜きん出ているという状況でしたので、Amazonをきっかけに入ってきたお客さまが満足して遊んでくださっているという状況が見えました。今回のコラボの反響に、更にプラスをしてくれたかなと思います。
あとは、お金に関するお話はあまりしたくないのですが、実際課金をしてくださるお客さまも多いと言えます。LTVが高いんですよね。コラボの際『お客さまがきちんと残ってくださっているか』『しっかりプレイをしていただけているか』という部分が課金にも繋がってくるのですが、そこを見比べた場合でもAmazonが高いかなと思いました。」
ー Amazonアプリストアでは、Amazonコインというバーチャル通貨を使うといつでもお得に課金ができるので、仰るとおりコアなユーザーさまが多くいらっしゃるのはあります。その反面、Fireタブレットはどちらかというとファミリーなど幅広い層に向けた『高コスパタブレット』なので、課金とか継続率という意味では正直あまり期待していなかったのですが、総合してAmazonの数字が良かったのはとても嬉しいです。
田畑:「Amazonの場合、単純にアプリストア的な部分だけではなく、メディアとして見て有効だったかなと思います。
今回リリース時に『さくら』のコラボレーションがありましたが、『ゴ魔乙は知らないけど、さくらは知ってる』というお客さまが入ってきたのもありますので、メディアとしても良かったかなと思います。」
小谷:「Fireタブレットを起動した時にゴ魔乙の絵が出てくるのも目を引きますし、そういった部分はとても効果的だったと思います。」
池田:「実際、ゴ魔乙の中に掲示板みたいなユーザーさま同士でやり取りができる場所があるんですけど、今でもたまに『Amazonが課金的にはお得なんだよ』と書いてあって、皆さん『ええっ』という反応になるんですよね。
そのくらい正直まだ浸透していないところはあるのですが、課金をする方にとってはお得なので、これからまだ伸びる余地があると思います。」
小谷:「ARPPU(有料ユーザー1人あたりの平均収益)は正直異常ですからね。」
田畑:「まず全体的なお話をすると、プロモーションとしての大きなミッションは、アクティブユーザー数の積み上げなんですね。
更に、アクティブユーザーの方にはどんな方がいるのかを紐解くと、まず日々遊んでくださっているユーザーさま、新規のお客さま、そして30日ぶり・2ヶ月ぶりに復帰されるユーザーさま。要は新規の方でも休眠復帰の方でも、日々遊んでくださるようにできれば、アクティブユーザーさまの数は増えていくはずで。
IPコラボを入れる時やメディアを選ぶ時には、売上を構成する部分がどこか、アクティブユーザーさまの構成がどうなっているのか、月ごとに『今月KGIとして最適なところはどこなのか』といったことを踏まえつつ判断しています。
コラボひとつを取っても、新規の方をターゲットにするのか、既存ユーザー様のリテンションに従事するのか、それともしばらく離れていたお客さまにもう一度カムバックしてもらうのかによって、どういうコンテンツを選んで行くかが変わります。」
田畑:「蓋を開けてみると、復帰の方が多かったですね。運営を長い間やっていることもあって、一度離脱したお客さまのカムバックが段々大きくなってきているのはあるかと思います。」
ー 実際にカスタマーレビューでもIPコラボと休眠復帰の両方に触れているご意見もありました。休眠復帰に効くIPコラボのタイミングでAmazon版をリリースしていただいて、面が広がったのも良かったのかもしれませんね。
小谷:「とは思いますね。なおかつアプリも常にバージョンアップを続けていますので。ユーザーさまが離れたタイミングにもよりますが、例えば1年くらい前とはUIもガラッと変わっていますし、機能も使いやすく洗練されたものにしています。
アプリが良くなっているタイミングで面を広げつつ、広く目に付く場所に置けたというのは良かったのかなと思います。」
池田:「現行のスマートフォン・タブレット向けのアプリというところは今後も継続していくのですが、『ケイブが考えるゲームのスポーツ化』というものに取り組んで行こうと思っています。
昨今eSportsの話が色々出ていると思うのですが、eSportsに当てはめて行くという訳では必ずしもなくてですね。今のeSportsだと、どうしてもトッププロゲーマーの話になりますし、『賞金がいくらで』とか、頂点の中の頂点の人たちの話になってしまいますよね。
ただ、本来のスポーツというのはそうでもなくて。子どもたちが近所でキャッチボールをしている野球もあれば、高校野球や少年野球があり、更にプロ野球やメジャーリーグがあって。同じくらいの腕前同士が楽しめて、かつ上の方の頂点に立っていくと、それを見ても楽しめるレベルになっていく、みたいな。本来のスポーツの面白さというのはそういうところかなと思っています。
ゲームにおいても、昔は家庭用ゲーム機で1人用のゲームが中心でしたけど、今ではこれだけインフラも整って来ていますし。ソーシャルゲームみたいな形が登場して、ネットでみんなで遊べる状況がここ何年も続いていますよね。
更にここで『スポーツ化』して遊べる。しかも、上手い人もそうでない人も、その人たちなりの楽しみ方で遊べる。そんな土壌が作られつつありますので、私たちとしては『ゲームのスポーツ化』を、ケイブが考えるところで落とし込んで行きたいと思っています。」
池田:「シューティングゲームは基本的に駆け引きがシンプルな構造なので、そこをどう対戦として絡められるかだと思います。
ゴ魔乙で過去にスコア大会をリアルイベントでやったのですが、私たちの想像以上に盛り上がったんですよ。『見て楽しめる』という分かりやすさもありますよね。
その辺りも踏まえて、私たちなりのスポーツ化に見合うコンテンツを提供できれば、多くの方に楽しんでいただけるんじゃないかなと思っています。」
インタビュー:田中 和之(Amazonアプリストア)
記事執筆・写真撮影:西山 七穂(Amazonアプリストア)