無料のスキルエクスペリエンスが楽しくなかったり役に立たなかったりした場合、ユーザーはスキル内課金のオファーを受け入れることができません。 Stoked Skills の Gal Shenar 氏は、次のベストプラクティスを紹介してくれました。
「スキルにプレミアムコンテンツを追加する前に、最初にすべきことは、ユーザーの気を引き、リピーターを獲得するための魅力的なコンテンツを考えることです。 音声ファーストのエクスペリエンスでは、購入を促す前にユーザーがスキルの品質と価値を体験できることが必要不可欠です。 スキルの価値は、ユーザーが楽しいと感じ、これに時間を費やしたいと思うエクスペリエンスを作成することで創出されます。 この無料のエクスペリエンスは、コンテンツに料金を支払う必要はないが、十分価値があると感じさせるものでなければなりません。 支払う価値があるものを提供するには、実用性、時間の節約、利便性、またはエンターテインメント性に優れたエクスペリエンスでユーザーを引き込み、高い満足感を与えるスキルにする必要があります。」
「Stoked Skills は音声ゲームに重点を置いているため、ユーザーが何度も戻ってきたくなる、没入感のあるエクスペリエンスの開発に力を注いでいます。 無料のエクスペリエンスもプレミアムエクスペリエンスも確実に価値を提供できるように、セッションの長さとリテンション率という2つの主要レポートをトラッキングしています。 スキルを何度も分析して分かったのは、ユーザーはエクスペリエンスを充実させるために数ドル余分に払うことをいとわないということです。」
「私の経験則によると、ユーザーが何かを購入する前は、少なくとも15~30分間熱中できたと感じる必要があります。 私たちが開発しているスキルは、何時間もプレイするゲームです。 ユーザーが完全に没頭できるようなスキルで時間を過ごすことができたなら、少額の追加料金を払ってもよいとユーザーが考える余地が出てきます。 ただし、対話型エクスペリエンスというより実用的なスキル(天気予報やレストランの予約など)を開発する場合、ユーザーエンゲージメントの時間は重要ではありません。 その場合に重要になるのは、ユーザーが次回も戻ってくるように、記憶に残る強い印象を創出することです。 プレミアムエクスペリエンスをオファーする前に、ユーザーに気に入ってもらえる魅力的な無料コンテンツでスキルの基礎を強化してください。 ユーザーが無料コンテンツを求めて何度も戻ってくるようになれば、プレミアムコンテンツをより効果的にオファーできるようになります。」
スキル内課金の商品には3つの種類があります。 ここでは3種類のスキル内商品について説明し、開発したスキルに各商品タイプを使用する際のアイデアをお話しします。
消費型
消費型は、消費して再購入できるスキル内商品です。 消費型には、ゲーム中に必要になるかもしれないヒントや、ゲーム内通貨のコインなどがあります。 また、10月のみ利用可能なハロウィン機能など、期限がある商品も消費型として提供できるでしょう。
通常、消費型は、サブスクリプション型や買い切り型と比較して、「新しい」コンテンツがそれほど必要ないため、すぐに実装することができます。 既存のエクスペリエンスでヒントを1回提供するといった単純なものでかまいません。 プレミアムエクスペリエンスを提供するために多数の新鮮なコンテンツを定期的に作成する必要がない場合、消費型は最適な選択肢となり得ます。
Yes Sire は、王国に関する決断を迫られるゲームです。 下した決断に応じてスコアが上下します。 この開発者は、王国に完全に背を向けられてもユーザーが引き続きゲームを楽しめるように消費型の商品を提供しています。 スコアが 0 になると、ユーザーは500ポイントを取り戻せる消費型の商品を購入できます。
Hypno Therapist は、簡単な催眠療法セッションを提供しています。 ライブラリ全体にアクセスできるサブスクリプション型に加えて、ユーザーは10クレジット分のパックも購入できます。 このパックを使って、ユーザーは特に興味のあるセッションのロックを解除できます。 クレジットを使い切ると、さらに10クレジット分購入できます。
サブスクリプション型
サブスクリプション型は、期間ベースで自動更新されるスキル内商品です。 新しいストーリーに月単位でアクセスできる権利やトリビアゲームの全カテゴリーにアクセスできる権利などを提供する場合、スキルにサブスクリプション型を使用できます。
Jeopardy! というスキルの Double Jeopardy はサブスクリプション型の好例です。 すべてユーザーは、平日毎日 Jeopardy で出題されるクイズを6問楽しむことができます(Single Jeopardy)が、このサブスクリプション型の Double Jeopardy では、追加でもう6問楽しむことができます。
Big Sky は、「Alexa向けの詳細な天気情報」です。 ユーザーが指定する詳細レベルでパーソナライズされた天気情報を提供します。 サブスクリプション型では、追加のパーソナライズ機能を利用できます。 たとえば、「母の家」や「ビーチ」など、独自のニックネームを付けて、追加の住所を設定することができます。 このサブスクリプション型の特長は、カスタマイズされた天気アラートのロックを解除できることです。
買い切り型
買い切り型は、一度購入するといつでも利用できる商品です。これには、特定の対話型ストーリーへのアクセス、アドベンチャーゲームの強力なツールなどが考えられます。 買い切り型は永続的なため、ユーザーが繰り返し利用するコンテンツに適しています。
パーティーゲームの Heads Up! は、ゲームをプレイしながら使用できるさまざまな問題カテゴリーを用意しています。 問題は買い切り型でロックを解除できるため、無料の幅広いエクスペリエンスをすべて楽しんだ後も簡単にゲームを続行できます。
Stoked Skills 社の Gal Shenar 氏は、独自のベストプラクティスを紹介してくれました。
「実装すべきスキル内商品の種類は、一目瞭然とは限りません。 たとえば、Escape the Room では、ユーザーが行き詰まったときにヒントを購入できます。 一見すると、必要に応じてヒントパックを購入する消費型として実装するのがよいと思えるかもしれません。 しかし、Escape the Roomでは、「プレミアム」エクスペリエンスをさらに楽しめるようにするため、ゲームの最初から最後まで無制限にヒントを使用できる買い切り型として提供しています。」
「買い切り型を選択した理由の 1 つは、ユーザーの入力と対話の複雑さを軽減するためです。 従来のモバイルや Web ベースのインターフェースでは、このような複雑さは不要でした。 音声ベースのスキルでは、ユーザーは手持ちのヒントの数を覚えておいて、使用するタイミングを慎重に考えます。 スキル内で何かを勘違いして、有料のヒントを誤って使用した場合、ユーザーはストレスを感じるでしょう。 モバイルや Web ベースのエクスペリエンスではビジュアルで確認できますが、音声ではそれができません。 そのため、エクスペリエンスの手間を増やすものを有料にしたくはありませんでした。 代わりに、前払いで購入しておけば、必要なときにいつでもすぐにヒントを手に入れられます。 こうすることで、ユーザーはゲームそのものの対話やプレイに集中できます。 このモデルは大成功でした。 ユーザーの入力をよりシンプルにデザインするというアイデアは、スキル内課金においてだけではなく、スキル開発全体においても非常に重要なものでした。」
「そうは言っても、消費型がスキル内商品で最適な場合もあります。 Wordplay は言葉を当てるゲームですが、ユーザーは指定の言葉を推測する際に有利になるパワーアップアイテムを使用できます。 たとえば、「Vowel Volcano」を使うと、その言葉の全母音がわかります。 また、「Word Wipe」を使うと、現在の言葉を新しい別の言葉にすることができます。」
「最初にこのアイテムを実装したとき、消費型の機能はまだ提供されていなかったため、買い切り型を使用していました。 買い切り型を購入したユーザーは、パワーアップアイテムを追加で使ってゲームを始めることができました。 このモデルのデメリットは、収益性が限定され、ユーザーがさらにパワーアップしたいと思っても柔軟に対応できないことです。 このため、買い切り型での提供をやめ、このスキルにもっと適している消費型に切り替えました。 ただし、既に買い切り型を購入したユーザーのエクスペリエンスが損なわれないように、そのサポートも継続することにしました。 新規ユーザーに対しては買い切り型の提供を中止しましたが、買い切り型を購入済みのユーザーは引き続きアクセスできるようにしたのです。 現在、ユーザーは、ゲーム中の好きなときにいつでも3つのパワーアップパックを購入できます。 ユーザーの役に立ちそうなタイミングで、戦略的アップセルとしてパワーアップアイテムがオファーできます。 この結果、パワーアップアイテムのコストを削減しながら、繰り返し購入してもらえるようになりました。」
アップセルは、ユーザーにスキル内商品を提示することです。 最初のアップセルは重要です。 スキルがプレミアムコンテンツのオファーを行うよいチャンスだからです。 アップセルの目的は、ユーザーの注意を引いて、商品の詳細を知りたいと思わせることです。 このためには、アップセルの配置、頻度、最適な会話を引き出すメッセージを注意深く考えてください。
Big Sky を開発した Philosophical Creations 社の Steven Arkonovich 氏は、適切なタイミングでプレミアムコンテンツを提示することで、スキル内商品をオファーされたユーザーの50%が購入に至ると述べています。
「音声の強みは、個人に合わせたエクスペリエンスにあります」と Arkonovich 氏は言います。 「スキル全体が、各ユーザーに合わせてエクスペリエンスをパーソナライズするのと同じように、アップセルメッセージとタイミングもその瞬間にユーザーが必要としているものに合わせてカスタマイズします。 それがコンバージョン率を高める鍵となります。」
音声エクスペリエンスの開発では、Webやモバイルアプリと異なり、画面を支配する視覚要素がありません。 画面に「今すぐ購入」や「買い物」ボタンがないので、ユーザーが新しい機能やコンテンツを見つけるには、スキルが音声で知らせてくれることが頼りです。
スキルが購入可能なコンテンツを知らせたり、アップセル中に特定のスキル内商品をオファーしたりするたびに、その指示でユーザーの時間と注意を奪うことになります。 ユーザーに購入の準備ができていない場合や開発者がそれだけの価値を創出できていない場合は、ユーザーはエクスペリエンスから遠ざかり、使用をやめてしまう可能性があります。 特に、ユーザーに複数回アピールしている場合は、その傾向が高まります。 このため、アップセルのオファーを行うときは細心の注意を払う必要があります。
成功率とアップセルのコンバージョン率を高めるには、ユーザーが必要としているまさにそのタイミングでオファーすることが重要です。 ユーザーが数分間行き詰まって悩んでいるときは、ヒントをアップセルする最適なタイミングかもしれません。 ゲームで最後のライフを失いそうになっているときは、その瞬間にパワーアップアイテムか追加のライフをオファーします。 ユーザーが購入しない選択をしたときは、必要に応じて後からプレミアムコンテンツにアクセスできることとその方法を伝え、無料のエクスペリエンスにすぐに戻します。
オファーを戦略的瞬間に行うことに加えて、ユーザーにまずは無料のエクスペリエンスで楽しさを知ってもらい、完全に引き込んでから有料の商品をオファーすることも重要です。 楽しくプレイできるゲームなら、ユーザーはお金を払います。 スキルにとって適切な方法でアップセルのタイミングを計ればよいだけのことです。 ユーザーがエクスペリエンスに費やす時間、行われた発話の回数、プレイ日数など、スキルのカスタマイズされたレポートをトラッキングして、ユーザーエンゲージメントと満足度を判断してください。 前に述べたように、アップセルのオファーを考える前に、十分な時間無料でゲームをプレイしてもらいます。 さらに、エクスペリエンスに直接役立つタイミングでだけ、スキル内商品をオファーします。
私たちの観察に基づくアップセルのベストプラクティスと、スキル内課金で収益化を実践している開発者から、いくつかヒントを集めました。
配置: 早めにアップセルを行う
早めにアップセルを仕掛けることで、スキルのプレミアムコンテンツをユーザーが見つけるのを待つのではなく、スキル側から積極的にユーザーに提示します。 平均的なスキルの発話数や対話数など、開発者コンソールで利用可能なデータを活用して、プレミアムスキルの中でアップセルを配置するタイミングを指定します。
World of Words Game スキルを開発した Sampat Biswas 氏は、次のように語っています。 「最初は、ゲームのレベル3にアップセルを配置しました。 しかし、ユーザーあたりの平均発話数と対話数のデータを見ると、エンゲージメントが最も高いのはレベル2前後でした。 アップセルをレベル2に移すと、オファーが増加し、コンバージョン率が向上しました。」
同じように、 Smarty Pants Trivia スキルの開発者である Sanasar Hovsepian 氏も、スキルのプレミアムコンテンツを早い段階でユーザーに知らせると売上が向上しやすくなることに気付きました。 「スキル内のどこにアップセルを配置したか考えることは、スキル内課金の売上を高めるうえで有効でした。 たとえば、スキルには後で購入できるプレミアムオプションがあると簡単に触れておくだけで、収益は21%向上しました。」
頻度: 頻繁にアップセルを行う
アプリ内商品のメニューをいつでも表示できるモバイルと異なり、音声ファーストのスキルでは、プレミアムコンテンツを購入できることをユーザーに知らせる必要があります。 開発者との共同作業を通じて、私たちはこの課題に対処する方法の1つがアップセルを頻繁に行うことだと学びました。
頻繁にアップセルを行うとユーザーエクスペリエンスが低下するのではないかと懸念するかもしれません。 しかし、配置とコンテキストが適切であれば、商品が頻繁に紹介されても、ユーザーは前向きな反応を示すことが確認されています。 また、これはプレミアムのオファーを多様化するのにも役立ちます。 アップセルでさまざまな種類のプレミアムコンテンツをオファーすることで、ユーザーが最適な商品を選択しやすくなります。
メッセージ: コンテキスト内でアップセルを行う
ユーザーは、購入を勧められている商品がどのようなもので、それを購入すればどのようなメリットがあるのか知る必要があります。 コンテキストに沿うように、オファーする商品の種類とオファーの際に使用する言葉を決めます。 こうすることで、ユーザーはスキルに気持ちを向けたまま、コンテキスト内のシームレスかつ自然なエクスペリエンスの中で商品の購入を決断できます。
ユーザーがアップセルのオファーを拒否した場合、スキルの無料エクスペリエンスにユーザーを戻す必要があります。
以下は、トリビアスキルで考えられる会話の例です。
ユーザー: 科学の問題を出して。 Alexa: 現在、科学カテゴリーへのアクセス権限がありません。取得方法を聞きたいですか? ユーザー: 結構です。 Alexa: わかりました。代わりに、無料のトリビア問題はいかがですか?
このように、ユーザーがオファーを拒否した場合、それを適切に処理し、アップセル前に楽しんでいたエクスペリエンスにユーザーを戻すことができます。 アップセルをオファーした商品についてユーザーが詳しい情報を求めるときは、自動的に購入エクスペリエンスに移動します。 これは購入プロセスの一部で、Alexaはユーザーに購入の内容とコストを通知します。 その会話は次のようになります。
ユーザー: 科学の問題を出して。 Alexa: 現在、科学カテゴリーへのアクセス権限がありません。取得方法を聞きたいですか? ユーザー: おねがい。 Alexa: 科学カテゴリーを購入すると、物理学、生物学、化学、天文学に関する問題にアクセスできます。プライム会員は19円お得になります。プライム会員でない場合、税込価格は99円です。購入しますか?
ユーザーがこのオファーを拒否した場合、スキルはアップセルが拒否されたときと同じエクスペリエンスを提供する必要があります。 現在のエクスペリエンスにユーザーを戻して、購入の会話を終了します。
商品を直接購入するリクエストがあった時のエクスペリエンスは、ユーザーがアップセルを承諾したときのエクスペリエンスと同じになります。
ユーザー: 科学カテゴリーを買いたい。 Alexa: 科学カテゴリーを購入すると、物理学、生物学、化学、天文学に関する問題にアクセスできます。プライム会員は19円お得になります。プライム会員でない場合、税込価格は99円です。購入しますか?
承諾されなかったときでも、次のように、いつでも購入できることを伝えておくことをお勧めします。
… Alexa: 購入しますか? ユーザー: いいえ。 Alexa: わかりました。どのトリビアカテゴリーも、買いたいと言うだけでいつでも購入できます。 代わりに、何をしましょうか?
ユーザーがオファーを承諾して商品を購入する場合は、購入したものを使用するエクスペリエンスにユーザーをすみやかに遷移させます。
… Alexa: 購入しますか? ユーザー: はい。 Alexa: わかりました。科学カテゴリーのロックが解除されました。「科学問題を出して」のように話しかけて始めることができます。 今すぐ科学の問題を始めますか?
コンバージョン率やユーザー体験を最適化するために、対話パス解析やインテント履歴といったツールが用意されおり、ユーザーの行動とアクティビティを把握できます。 このデータは、ユーザーが感じている主要なつまずきポイントや発話を特定するのに役立ちます。
さらに、アップセル戦略を最適化するための新しいアップセルレポートが開発者コンソールに2つ追加されました。 オファーの成立したアップセル(アップセルを聞いたユーザーがオファーを聞くことを承諾した割合)とアップセルコンバージョン率(アップセルを聞いたユーザーが購入を承諾した割合)です。 これらのレポートを使用して、アップセル戦略の効果を測り、強化することができます。