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Alexa開発者コミュニティーへの貢献が大きい開発者を称えるためのプログラム、Alexa チャンピオンとして今回、新たに世界で12人が発表され、日本からも初めて2人のチャンピオンが誕生しました。それぞれのチャンピオンのこれまでの活動や、今後について伺ったインタビューをご紹介します。
― Amazon Alexaを知ったきっかけを教えてください。
2年半ほど前、AWSのユーザーコミュニティ、JAWS-UGの神戸支部を引き継ぎまして、初めての勉強会で AWS Lambda をテーマとして取り上げました。その勉強会の中で、「AWS Lambdaはファンクション。Lambdaを使うならもっと面白いものがある」と、Alexaを紹介されました。日本ではまだローンチされていませんでしたが、AWS のバージニア リージョンでは、Alexa のイベントトリガーとして、AWS Lambda が使える状況でした。また、GitHubでは、Raspberry Pi (ラズパイ)で作るAlexaデバイス(AVS)のプロトタイプを作成するためのリポジトリがあり、調べながら実際に作ってみたところ、大きくはまりました。
― どこが面白いと思いましたか?
最初はAlexaが、自分の言っていることを聞いてくれませんでした。私のジャパニーズイングリッシュが原因と思うのですが、それでも、ちゃんと返事してくれることもあるし、「分かりません」と返してくることもある。その複雑さ、というか、あいまいさが面白かった。これほど雑にデバイスとコミュニケーションする体験はそれまで、ありませんでした。また、AIなので、もちろん学習によって頭がよくなっていく。日ごとに英語のイントネーションが違っていったりするのも面白かったですね。開発者としては、こんなに簡単にデバイスってセルフで作れてしまうんだ、というところが大きかったですし、何より人間的なインターフェースであることに、衝撃を受けました。これは絶対に面白い、という根拠のない確信を持つようになり、「これは広がったほうが社会が面白くなるぞ」と、没頭していきました。
― ちゃんと返事をしてくれないところも面白いと感じたのですね。
プログラマーとしては基本、あいまいさの排除と戦っているので、「最終的にシステムは100%に近いところで動かないとだめ」というのがこれまでの価値観でした。でも、音声では「間違ったっていいじゃない」というか、それが当たり前の世界があることに気づきました。そもそも音声はあいまいです。あいまいな中でやりとりをし、その上で答えを返す。しかも精度はどんどんよくなっていく。Alexaに対して愛着がわくくらいのレベルに、すごいスピードで進化していく点も含めて、今までのシステムとは違い、機械と人間とが近くなっていくという魅力を感じました。
― VUI(音声ユーザーインターフェース)での開発は、あいまいな部分と、あいまいではない部分がありますよね。
VUIはこれまでのソフトウェアよりも、状況に依存するインターフェースだと思っています。例えば医療関連のシチュエーションでは、絶対に間違いがあってはいけないですよね。だから、もしVUIを導入するとなったら、できる限り単刀直入に、短い発話で、正しく伝える言い回しを選ばないといけない。ナースコールがボタン一発で看護師を呼べるように、正確さとアジリティがいるわけです。対して、あいまいさを許してくれる状況というのもありますよね。たとえば、雑談とか、音楽を聴くとか。Alexaと雑談をしながら、「今の気分にあった音楽をかけてよ」というのは、あいまいでもいいので、あえて会話数を多く設計して、たくさん話せたほうがいいかもしれない。こういう人間同士のシチュエーションに近いやりとりを考えていると、楽しいですね。
― これまではアメリカで2スキル、日本で1スキルを開発されていますが、開発で感じたことは?
実際に携わらせていただいたプロジェクトで、英語ではすんなり聞こえるのに、同じ内容を日本語にするともったりしている、というフィードバックをもらったことがあります。この調整にはいつも苦労します。現場の、しかも人の感覚に依存する部分が多いので、SSMLを言語ごとにペルソナ通りにちゃんと書くのが、バックエンド側よりも大変だったりします。日本語は、言葉の性質だと思いますが、どうしても長くなってしまう。話す速度も、英語よりゆっくりはっきり話す傾向があると感じます。ただ、Alexaとの長いやりとりを聞いていると疲れますよね。そこで、できるだけフランクなスキルにしたい、というのは開発中いつもテーマとして持っています。敬語ではなく「~だよ」「~じゃない?」といった言葉を状況によって使うなど、堅苦しい日本語は打破していきたいと思っています。
― Alexaのような存在によって、将来人のコミュニケーションスタイルが変わっていくということもあり得るかもしれませんね。
最近Alexaを導入し始めた企業から、社員同士のコミュニケーションが活性化しているかもしれない、との話を聞きました。2つの部屋にそれぞれAlexaを置いて、出退勤、タスク管理をAlexaに話しかけて打刻する、というものなのですが、Alexaに社員がしゃべりかけるうちに、たまたまそこにいた社員同士もしゃべり始め、会話が弾んでいるかもしれない、というのです。Alexaが人と人を仲介できる、面白い事例です。
― 今後Alexa開発の中で実現できたらいいなと思うことは何でしょうか。
3つあります。まず、翻訳です。現時点で一つのデバイスは一つの言語になっていますが、いろんな国の人がそれぞれの言語で話しかけても、答えてくれる、というもの。実は去年ラズパイで、日本語で話しかけると英語で返すというAVSデバイスのプロトタイプを作ってみたのですが、言語の壁を飛び越えてしまった感覚になり、素敵な経験だと感じました。もう一つは、医療分野。例えば、病気や障害でうまくしゃべれない人の言葉をAlexaが正確に聞き取り、答えるとか。通常の発話だけでなく、聞き取りづらい発話も Alexaが学習して聞き取れるようになれば、コミュニケーションに役に立つのではないかと考えています。視覚や聴覚に障害を持つ方が、Alexaを介してより能力を発揮しやすくなる世界がくればと考えています。3つ目が、子どもとお年寄りです。特にお年寄りについては最近、話し相手としてAIスピーカーは効果があるとの記事を読みました。それだけでなく、今までパソコンや機器を使うのが難しいために便利なサービスなどを使えていなかった方々が、音声で簡単にアクセスできるようになれば、生活がより豊かになると思います。病院やお医者さんとつなげるということもできるかもしれないですね。デバイスの操作が覚えられない、新しいテクノロジーに対して抵抗感がある、などの理由でオンラインでの行動から遮断されてきた人にとっては、操作自体が自分の声になるわけですから、可能性が大きいと思います。
― 伊東さんはオランダ在住ですが、オランダではどのような使われ方が想定できますか?
オランダでは、業務効率化という視点での活用が加速すると考えています。ITサービスにおいて、オランダには人手を徹底的に排除して効率化する、という視点があると思っています。まだEchoデバイスは発売されていませんが、既に発売されているドイツで買ってきている人はたくさんいますし、雑誌などでもスマートスピーカー特集が組まれていたりして、アンテナは張られている感じです。先駆けて音声を導入しようという会社もありますし、ミニハッカソンなども散見されます。
― オランダでプログラマーとして活動されている中で、どのような手ごたえを感じていますか?
オランダへの移住計画は、3年ほど前に始まりました。私のパートナーがオランダは移住しやすいかもしれない、という情報を見つけてきたのです。当時は私も会社員で、どちらかというと否定的だったのですが、その後フリーランスになり、AWSのコミュニティー活動で韓国に行ったときに、「日本じゃなくてもいいかもしれない」と思ったりもしました。その後、紆余曲折ありまして、2017年7月からオランダに住んでいます。クライアントはすべて日本の会社さんです。仕事は全然違和感なくできています。今後はオランダでもクライアントを増やしていきたいですね。以前から、日本人だけというより、いろんな国や文化の人とミックスして仕事をした方がシナジーが生まれやすいのでは、と感じていました。価値観がごちゃ混ぜになった方が、新しい発想ができるのでは、と。移住をしてから、この感覚はさらに強くなってきています。コミュニティー活動を通して、色んな国の人と話をし、国を超えたイベントを行うことで、私自身も変わってきました。これからも色々な人とコラボレーションしていきたいと思っています。
― 今後、Alexaチャンピオンとしてのコミュニティー活動はどのように展開したいと思っていますか。
現在3つのコミュニティーの運営に関わっています。
日本では Alexaユーザー、開発者のためのコミュニティー AAJUG(Amazon Alexa Japan User Group) を立ち上げました。ユーザー体験と開発者がいっしょになって、Alexaをもりあげるためのコミュニティーです。
また、Alexa を始めるきっかけとなった JAWS-UG 神戸 も引き続き運営をしています。Alexa を知ってから、勉強会のテーマとしてずっとAlexaを取り上げていたのですが、「Alexaの聖地は神戸」と言われることもあるほどです。
そして最後は、オランダで新しく立ち上げた AWSコミュニティー、JAWS-UG Netherlands Branch(オランダ支部)です。1回目のミートアップには35人ほど集まり、2回目も6月に開催しました。地域にこだわったコミュニティーというより、たとえば神戸とオランダのコミュニティーがコラボレートするなど、地域の枠を超えた活動で、ワクワクできる技術をシェアしていきたいと思っています。
3つのコミュニティーがありますが、JAWS-UG 神戸を引き継いだときに、そのメンバーで決めた根本的な理念のようなものがあります。それは、「自分たちがAWSでわくわくしたことをシェアする」というものです。このポリシーはどのコミュニティーでも同じで、オランダでもAlexaでわくわくした体験を広げられるような活動をしていければと考えています。
(インタビュー実施:2018年6月)
伊東知治さんのAlexaチャンピオンページ(英語)
Amazon Alexa Japan User Group(AAJUG): https://www.facebook.com/groups/amazon.alexa.jp/
JAWS-UG KOBE: https://www.facebook.com/groups/450069605016080/
JAWS-UG Netherlands Branch: https://www.meetup.com/ja-JP/jawsug_netherlands_branch/